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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和56年(ワ)296号 判決 1984年6月15日

原告(反訴被告、以下原告という)

株式会社柄谷工務店

右代表者代表取締役

柄谷順一郎

右訴訟代理人弁護士

前原仁幸

被告(反訴原告、以下被告という)

池田青

右訴訟代理人弁護士

上原邦彦

垣添誠雄

主文

一  原告の本訴請求を棄却する。

二1  被告と原告との間に雇用契約関係の存在することを確認する。

2  原告は、被告に対し、昭和五六年四月一日以降、毎月二七日限り、毎月当り金二一万五、三八九円を支払え。

3  原告は、被告に対し、金二〇九万三、一一〇円及びこれに対する昭和五七年一二月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は本訴反訴を通じ原告の負担とする。

四  この判決の第二項2及び3は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告に対して、原告・使用者(事業主)、被告・労働者の関係がないことを確認する。

2 被告は、原告から金九万六、九五〇円の支払いを受けるのと引換えに、原告に対し、別紙第三株券目録(略)記載の株券を引渡せ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文第一項同旨

2 訴訟費用は原告の負担とする

(反訴)

一  請求の趣旨

1 主文第二項1ないし3同旨

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 第二項2及び3につき仮執行の宣言

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

被告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 原告は、総合建設業、鉄工業、一般貨物運送取扱業、自動車整備事業、宅地建物取引業を営む株式会社である。

2 原告の事業組織は、別紙第一の組織図に記載のとおりであって、俗にいう部課制を採って運営されている。

3 原告においては、昭和四五年一一月二〇日まで役員―部長―部次長―課長―係長の管理職(職責制)を実施していたが、同月二一日従業員資格制度を採用し、その後数度の変遷を経て、昭和五二年九月二一日以降は、部長―主幹―主席主事及び主席技師―主任主事及び主任技師―主事、技師と改められた。この改編によると、部長は従前の上級部長に、主幹は従前の一般部長に、主席主事及び主席技師は従前の部次長・課長クラスに、主任主事及び主任技師は従前の課長・係長クラスに、主事及び技師は従前の係長クラスにほぼ相当する(以上のような管理組織の変遷は、別紙第二の管理組織の変遷表(略)のとおり)。

そして事務関係の職制は、所管の責任者を担当長といい、おおよそ主事、主任主事、主席主事クラスが配属されているが、これらの者に対しては、その地位に応じて責任手当の性格をもつ資格給が支給されているほかに、労働基準法四一条二号該当者として労働時間適用除外とし、タイムカード、出勤簿などの拘束管理制度の適用はない。

4 被告の職歴

被告は、昭和三二年二月二一日原告に雇用され、同三七年一一月一二日資材部資材課主任、同四四年八月二一日資材部機材課係長などを歴任した後、

同四五年一一月二一日資材部機材担当主事、同四七年一〇月五日安全管理部主任主事、同五〇年九月二二日総務部安全担当主任主事、同五二年九月二一日管理部安全衛生管理担当主任主事、同五三年二月一日技術管理室安全衛生管理担当主任主事、同年五月八日技術管理室安全衛生管理担当兼廃棄物処理担当主任主事、同五四年一〇月一日技術管理室安全衛生管理担当兼廃棄物処理担当主席主事、同五五年一二月二二日管理部開発室主席主事に、それぞれ任命された。

5 安全衛生管理の業務内容

被告は、昭和四七年一〇月五日安全管理部主任主事に任命され、以後昭和五五年一二月二二日管理部開発室主席主事として転出するまでの間、安全衛生管理の担当長の地位にあったが、その業務内容は次のとおりである。

(一) 社内業務

(1) 当該年度安全衛生管理活動基本方針立案、稟議

(2) 当該年度安全衛生管理費予算案作成

(3) 従業員の労働災害に対する法定の補償額を上回る特別補償費の査定

(4) 現場関係の事業所・作業所の巡回、安全点検、改善指示、指導

(5) 従業員、協力業者に対する安全衛生教育

(6) 協力業者に対する安全指導

(7) 安全衛生面から必要な廃棄物の処理

(8) その他専任安全管理担当者として行なう社内安全衛生業務の総括事務

(二) 社外業務

被告は、安全衛生管理に関する社外の会合、研修、折衝などに原告の利益代表者として適宜参加していた。

6 管理部開発室の業務内容

(一) 原告は、昭和五五年四月以降景気が衰退しはじめたことに鑑み、収益の落込みを補填するため同年一二月管理部開発室を設置して新規事業の企画立案、事業化を実施することとした。開発室は経営上の利害を具体化する機構であるが、被告は開発室の担当責任者に任命された。

(二) 被告は、開発室において、例えば原告所有の遊休地を駐車場として活用する計画を立案し、遊休土地周辺の市場調査を基礎として収容台数や駐車料金を確定したり、収支試算を行なうなどの業務に従事していた。

7 被告における労働組合結成活動と解雇に至る経緯

(一) 被告は、昭和五四年八月頃から、当時営業部の主席主事であった訴外日隈孝安及び同部の主任主事であった訴外田頭良之助とともに、従業員の不平不満、苦情を汲み上げてその改善解決を図るという名目のもとに労働組合の結成活動を始め、各従業員の家庭に宛て労働組合を結成する旨の通信を発したり、安全管理責任者として各事業所、建設現場を巡回する際、現場作業員らに対して運動の趣旨を説き、参加と協力を求めるなどの行動に出た。

(二) 原告の社長及び管理部長は、昭和五四年九月五日に被告、訴外日隈孝安及び同田頭良之助と意見を交換し、労働組合結成の必要性を主張する被告らに対し、被告ら三名が会社の上級職員という地位にあるにもかかわらず労働組合の結成を計画指導するのは一般従業員を誤導するものであって正当な行為ではないと注意を促した。

(三) その後被告らは企業内労働組合結成準備会を設けたが、会の趣旨としては従業員親睦会に止まるべきであるとする多数の反対派が脱退するに至った。そこで被告らは、昭和五四年一一月頃、株式会社柄谷工務店従業員組合結成準備委員会名義でもって加入申込書同封の加入呼びかけ通信文書を各従業員家庭に送付し、労働組合への加入勧誘を開始した。

(四) 被告らは、昭和五五年二月にも同名義で第二回目の加入依頼ビラを配布した。

(五) 原告の管理部長である訴外久保園幸弘は、同年三月七日被告に対し、会社内での地位、職責の自覚を促すとともに行動の自制を要望した。これに対し、被告は、自分には業務決定権が何一つなく、部下を指揮、掌握するような地位、職責がないから労働組合を結成しようとするのは正当である旨答弁した。

(六) 久保園は、同月一七日、被告、訴外日隈孝安及び同田頭良之助に対し、再度自己の地位、職責の自覚を促すとともに社内での労働組合結成活動についての自制を要望した。

(七) 被告は、同年七月従前と同一名義を用い、加入申込書をつけて三回目の加入申込依頼の通信文書を従業員の各家庭に配布し、一一月にも同様な動きをした。

(八) 同年秋から昭和五六年一月にかけて、訴外日隈孝安及び同田頭良之助が、被告の路線に追随できないとして袂を分かち、爾後被告のみが組合結成準備会の活動を行った。

(九) 昭和五六年一月二三日頃、被告は、単独で従来同様組合加入勧誘の通信ビラを配布した。そこで原告は、管理部長名で、「会社の経営に責任のある立場の人々が中心になって労働組合の結成を呼びかけているが、右の立場の人々の行為は不当労働行為で労働組合の正しい結成行為ではない。なお会社の経営に責任ある立場の人々というのは、主事・主任主事・主席主事・主幹・部長等の地位にある人である。」旨の文書を全従業員に配布し、職場内の混乱防止と秩序維持に努めた。

(一〇) 被告は、同年三月一六日、従前と同一名義を用いて「会社の不当労働行為に対して勇気と確信をもって反撃しよう」との見出しをつけた通信文書を要求書作成についてのアンケート資料とともに従業員に送付した。

(一一) 久保園は、同月二五日被告に対し、その地位・職責に相応の自覚を促すとともに、即刻現在行っている活動を止めるよう要請した。これに対し、被告は現在の活動は正当な行為であるから将来も継続すると主張した。

(一二) 久保園は、翌二六日午前中被告の見解を聞いたが、被告は前日同様の主張を繰返すに止まった。

(一三) そこで久保園は、同日午後臨時取締役会を招集し、被告の処遇を協議したうえ、右取締役会の席に被告を呼び寄せ、社長及び各取締役の面前で被告の意思を確認したが、被告は従前同様会社に非協力の態度を示した。そのため取締役会は、被告が上級管理職者として事業の利益に協力する立場にありながら、会社の命令に従った就労をなさない者であるとの認識で一致し、解雇する方針を決定した。

(一四) そして同日中久保園は、被告に対し、被告が原告会社の管理職者であって、経営側組織の一員として労働者の待遇に責任を負う立場にあるのに、自ら責任を負う労働者の待遇について異議や不服を主張したり、実際行動に移す行為は背信行為として認められない、原告の説得に耳を傾けることなく、自らの行動を正当化し、今後とも右行動を継続すると言明していることは、原告の事業活動の自由を侵害することになり、労働意欲、労働能力がないものと評価せざるを得ないから、就業規則三〇条により、同日付をもって解雇する旨通知した。

(一五) 被告に対する解雇予告手当・退職金等は、翌二七日被告に提供したが、受領しないので供託した。

8 右の次第で、原告は被告を解雇したので、原告と被告との間の雇用契約は終了した。

9 原告は従業員持株制度を実施しており、被告は別紙第三株券目録記載の原告が発行した株券(額面金額五〇円)の交付を受けて所持している。被告は、原告の株式を保有するに際し、原告に対して「退職したときはその事由の如何にかかわらず額面金額にて貴社の指示される第三者に譲渡する事」を約した。

10 よって原告は、被告に対し、雇用契約の終了に基づく雇用関係不存在の確認並びに従業員持株制における原・被告間の約定に基づき、株券額面金額の金九万六、九五〇円の支払いと引換えに原告の所持する株券の引渡を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実のうち、原告の事業組織が別紙第一の組織図の記載のとおりであることは認めるが、原告の事業組織が俗にいう部課制で運営されているとの点は否認する。

3 同3の事実のうち、昭和四五年一一月二〇日まで原告主張の職責制が実施されており、その翌日から従業員資格制度が採用されたこと、事務関係所管責任者の担当長である者に対して資格給が支給されており、昭和五四年一二月からタイムカード、出勤簿の制度がなくなったことは認めるが、その余の事実は否認する。

4 同4の事実は認める。

5 同5の事実のうち、被告が所管担当長の地位にあったこと、社外業務について原告の利益代表者として参加したとの点を否認し、その余の事実は認める。もともと被告の行った安全衛生管理の業務は所管の責任者である部長のもとで補助的な役割を果していたにすぎない。

6 同6(一)の事実のうち、被告が開発室に配属されたことは認める。しかし、開発室の担当責任者は職位としての部長である訴外久保園幸弘であり、同人は原告会社の取締役でもある。被告としては開発室の職務内容については知らない。

同6(二)の事実は認める。

7 同7(一)の事実のうち、被告が昭和五四年八月頃から、一般労働者及び現業労働者に対して労働組合の結成活動を始め、各従業員に労働組合結成を呼びかける通信文を送付した事実は認めるが、その余の事実は否認する。

同7(二)の事実のうち、原告の社長及び管理部長と被告らが意見を交換し、被告らが労働組合結成の必要性を主張したことは認めるが、その余の事実は否認する。

同7(三)(四)の事実は認める。

同7(五)の事実のうち、「被告の会社内での地位、職責の自覚を促すとともに行動の自制を要望した」旨の事実は否認する。但し訴外久保園幸弘が「何で組合をつくるんや」と組合作りを非難した事実はある。

同7(六)の事実は否認する。

同7(七)ないし(一五)の各事実は認める。但し、被告は、原告が主張するように上級管理職者として事業の利益に協力する立場にはなく、原告会社において使用者の利益代表者に該当しない。従って被告の行った労働組合の結成活動は正当な行為であって、就労意思、能力を欠けるところはない。

8 同8の事実は争う。後記のとおり原告のなした解雇は無効である。

9 同9の事実は認める。

(反訴)

一  請求原因

1 被告は、昭和三二年二月原告に雇用され、以来原告の従業員として勤務してきたものである。

2 原告は、昭和五六年三月二六日被告に対し、同日限り解雇すると意思表示した。

そして右解雇理由の要旨は、「被告は原告の管理職者であって、労働者の待遇について責任を負う立場にあるから、労働者の待遇について不服等を主張したり、さらに実際行動に移すなどの行為をとることは、原告に対する背信行為である。被告は原告の度々の説得に耳を傾けず、従来から執拗に自らの行動を正当化し、さらに部外団体の実力行使をほのめかし、今後もこのような行為を継続すると表明して原告の事業活動の自由を侵害している。よって被告は労働意欲、労働能力を欠く者と評価せざるをえず、就業規則三〇条により解雇する。」というものである。

3 しかしながら右解雇は次の理由により無効である。

(一) 就業規則違反

原告が制定の就業規則三〇条は、解雇基準と題して解雇事由を列挙しているが、同条は解雇事由の制限列挙と解されるところ、解雇事由が就業規則で制限列挙されている場合、使用者の解雇権行使はそれによって拘束される。

そこで被告が労働組合を結成しようと行動したからといって、それ故に被告は、欠勤したり、仕事を怠けたりしたことはないのであり、就労の意思を欠いたことはない。従って被告の労働組合結成行為及び今後の右行為継続の意図の存在をもって、就労の意思に欠けるとして、被告を解雇することは就業規則三〇条一号に違反しており、解雇は無効である。

(二) 不当労働行為

労働組合法(以下、たんに労組法という)七条一号は、労働者が労働組合を結成しようとしたの故をもって、その労働者を解雇することを不当労働行為に該当すると規定するところ、原告は、被告が労働組合を結成しようとしたことの故をもって即時解雇したものである。

被告は、労働者であって、労組法二条但書一号にいう使用者の利益代表者には該当しない。すなわち、

被告は、原告の「役員」でないのは勿論であり、原告の管理部人事担当に所属したことはなく、人事権を有する監督的地位にあったわけでもないから、「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」にもあたらない。また被告は従業員の労働条件を調整するなどの業務に従事したこともないのであるから、「使用者の労働関係についての機密に接する監督的地位にある労働者」でもない。さらに、被告は、「その他使用者の利益を代表する者」にもあたらない。けだし労組法二条但書一号の立法趣旨が使用者側からの組合に対する干渉を排除し、労働組合の自主性を確保しようとするものであって、使用者側の利益を擁護するためのものではないという点にあることに鑑み、「使用者の利益代表者」の範囲は制限的に解釈しなければならないところ、被告の安全衛生管理の業務及び開発室での業務は前記のとおりであって、労働組合に対する干渉を招くような人事及び労働条件に関するものではないうえ、いずれも被告に最終的な業務決定権があるわけでもないのであるから到底使用者の利益を代表する者とはいえない。

右のとおり、被告は、原告会社において使用者の利益代表者に該当する者ではないのであるから、労働組合を結成しようと活動しても、それは正当な行為である。従って原告のなした本件解雇の意思表示は労働組合法七条一号に該当する不当労働行為であるから無効である。

4 被告が解雇される直前の三か月の平均賃金(但し差引支給額の算術平均)は月額二一万五、三八九円であり、毎月二七日が賃金支払日であった。

5(一) 被告は、昭和五五年七月に夏期賞与として金五一万一、八五二円を、同年一二月に年末賞与として金五三万四、七〇三円をそれぞれ原告から支給された。

(二) 原告は、その従業員に対し、昭和五六年七月一一日と同年一二月一〇日及び同五七年七月一二日と同年一二月一一日に、七月は夏期賞与、一二月は年末賞与を、いずれも前年を上回る水準の金額で支給した。

(三) そこで被告は、昭和五六年及び同五七年度の夏期、年末賞与として、昭和五五年度に支給を受けた前記の夏期、年末賞与の合計金額である一〇四万六、五五五円の倍額に当る二〇九万三、一一〇円を原告から支給されえたはずである。

6 以上のとおり、原告の被告に対する解雇は無効であるから、被告と原告との間には引続き雇用契約関係が存在している。従って被告は、原告に対し、右雇用契約関係の存在することの確認を求めると共に、雇用契約関係が存在する以上、原告は被告に対して賃金或いは夏期・年末の賞与を支払うべき義務があるから、解雇以後の昭和五六年四月一日から、毎月二七日限り、一か月当りの平均賃金二一万五、三八九円を支払い、かつ昭和五六年、同五七年度の夏期・年末の賞与分に当る金二〇九万三、一一〇円及びこれに対する最終の弁済期の翌日である昭和五七年一二月一二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1及び2の各事実は認める。

2 同3(一)(二)の主張は争う。被告は、原告会社内における地位・職責からして使用者の利益を代表する者に該るから、当然使用者の利益代表者として専心行為することが求められるところ、労働組合の結成の名の下に使用者の不利益をはかる集団行動を煽動し、原告から再三中止、自制を求められていたのに、敢えてこれを無視して使用者の利益を乱す行為を繰返し、かつ自らの行動を正当であると主張してやまなかったわけであり、使用者の利益代表者の地位・職務にありながら、労働組合の正当な行為が可能であると主張して、労働組合の正当な行為の名分を掲げて原告会社の意思に抗争、徒らにその秩序を乱して、業務運営に協力する態度・行為がなかったものであるから、被告には就労の意思がないと認定して本件解雇をなした。不当労働行為には当らない。

3 同5の事実は認める。

4 同6の主張は争う。

第三証拠(略)

理由

一  本訴請求原因1及び4の事実、被告が昭和五四年八月頃から原告会社の従業員に対して労働組合の結成を呼びかけ、以後原告会社従業員の間で労働組合を結成しようとして活動を続けたこと、そこで要するに、原告は、被告の原告会社内における地位・職責に照らすと、被告は原告会社の管理職者であって、事業の利益に協力する立場、いわゆる使用者の利益代表者に該るので、原告会社の従業員に対して労働組合を結成しようと活動を続けることは許されないとし、被告に対し、その地位・職責に相応の自覚を促し、行っている労働組合の結成活動を中止するよう要請したが、被告は自らの行動は正当な行為であるから中止する必要はなく、将来も継続すると主張するので、原告は、被告が原告会社の命令に従った就労をなさない者であると判断し、昭和五六年三月二六日、被告に対し、「被告が原告会社の管理職者であって経営側組織の一員であるのに、労働者の待遇について異議や不服を主張したり、実際行動に移す行為は、原告会社に対する背信行為として認められない、被告は原告の説得に耳を傾けることなく、自らの行動を正当化し、今後とも行動を継続すると言明していることは、原告の事業活動の自由を侵害することになり、被告には労働意欲、労働能力がないものと評価せざるをえないから、就業規則三〇条により同日付をもって解雇する。」旨の理由をもって、解雇を通告したことは、当事者間に争いがない。

二  ところで、被告は、原告主張のように被告は原告会社の管理職者として事業の利益に協力する立場、いわゆる使用者の利益代表者に該当する者ではないので、労働組合を結成しようと活動することは正当な行為であって、かかる行為をしたことによって原告から解雇される理由はなく、原告のなした解雇は、就業規則違反又は労組法七条一号にいう不当労働行為に該当し、無効であると主張する。

そこで本件においては、要するに、原告の被告に対する解雇は、被告が原告会社において使用者の利益代表者に該当する者であるのに、原告会社の従業員に対して労働組合の結成を呼びかけ、従業員の間で労働組合を結成しようと活動を続けたことをもって、原告会社に対する背信行為であり、かつ原告会社の事業活動の自由を侵害するものであって、これが就業規則三〇条(一号)の「就労の意思を欠く」ことに該当するとの理由によるものである。そして右の理由による本件解雇の効力の有無を判断することになるのであるが、まず本件における当事者間の主たる争点は、被告が原告会社において労組法二条一号但書にいう「使用者の利益を代表する者」に該当するか否かに帰着するので、以下この点を検討する。

(一)  原告の事業組織が別紙第一の組織図に記載のとおりであること、原告においては昭和四五年一一月二〇日までは、役員―部長―部次長―課長―係長の管理職(職責制)を実施していたが、同月二一日以降従業員資格制度を採用したこと、事務関係の所管責任者の担当長である者に対して資格給が支給されており、昭和五四年一二月からタイムカード・出勤簿の制度がなくなったこと、原告会社における被告の職歴は本訴請求原因3のとおりであること、そこで被告が昭和四七年一〇月五日安全管理部主任主事に任命され、以後同五五年一二月二二日管理部開発室主席主事として転出するまでの間、従事していた安全衛生管理の業務内容は、社内業務としては原告主張(本訴請求原因5の(一)(1)ないし(8))のとおりであり、社外業務としても、安全衛生管理に関する社外の会合、研修、接衝などに適宜参加していたこと、被告は前記日時に管理部開発室に配属されたこと、そこで被告は原告主張(本訴請求原因6の(二))のとおりの業務に従事したことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  ところで、労組法二条一号但書は、使用者の利益代表者の具体例として、(1)役員、(2)人事権を有する監督的労働者、(3)労働関係についての機密に接する監督的労働者、の三つをあげ、さらに(4)「その他使用者の利益を代表する者」という一般的範疇をおくが、労組法二条は労働組合の自主性の要件を定めたものとされるのであり、同条但書はさらにその消極的要件を規定するものである。そして同条一号但書の基本的な趣旨は労働組合の自主性の確保をはかるため、自主性阻害の危険の特に大きい一定の使用者側人員が組合に参加することを組合自治の犠牲においても否定するということであって、使用者の利益を擁護し或いはその便宜をはかることはその直接のねらいには含まれていないと解されるので、使用者の利益代表者の範囲をむやみと拡大的に解釈することには慎重であるべきである。そこで個々の場合に、労(ママ)該労働者がそれに該当するか否かは、その者の加入によって使用者と対等の立場に立つべき労働組合の自主性が損なわれるといえるかどうかを標準として、労(ママ)該労働者の職制上の名称等にとらわれることなく、企業の規模、職制のあり方等に即し、その職務の実質的内容を吟味して個別具体的に決められるべきである。

本件においては、被告は昭和五四年八月から原告会社従業員に対して労働組合の結成を呼びかけ、従業員の間で労働組合を結成しようと活動を続けたのであるが、右活動中における被告の職歴をみると、前記のとおり、従業員資格制度上の資格は、昭和五四年九月三〇日までは主任主事、同年一〇月一日以降は一段階昇格して主席主事であり、職務は、同五五年一二月二一日までは技術管理室に配属されて、安全衛生担当兼廃棄物処理担当として、同月二二日からは管理部開発室に配属されて、掲記の業務に従事していたものであるところ、さらに右業務の実質的内容を検討することとする。

(三)  (証拠略)によれば、次の事実が認められる。

1  被告が配属されていた技術管理室において、被告は、責任者担当長の地位にいたわけではなく、責任者になる上司がいて、その下にあって、指示、命令等を受けながら安全衛生管理担当としての業務を行っていたものであり、その個々の業務内容の実態は次のとおりであった。

(1) 当該年度安全衛生管理活動基本方針立案、稟議

被告は昭和五三年度以降、各年度毎の安全衛生管理に関する活動方針を立案しているが、被告の業務は決裁伺いのための計画案作成にとどまっており、直属上司の主幹古市さらにその上司の宅間の指示、命令の下にあって、その決裁・承認を必要としたものであり、さらに右計画案は経営幹部のもとに提出されるわけであって、被告作成の計画案が経営幹部列席の安全会議などで修正されることも再々であり、被告は安全衛生管理についての最終的な責任者とはなっていない。このことは安全衛生管理活動についての五か年計画の計画案作りにおいても同様である。

(2) 当該年度安全衛生管理費予算案作成

被告は、昭和五五年度における安全衛生管理に要する各種費用を算出したことがあるけれども、これも決裁を受けるための案として作成されたものである。

(3) 従業員の労働災害に対する法定の補償額を上回る特別補償費の査定

これは従業員が労災事故により負傷した場合において、労災保険法でなされる八〇パーセントの補償のほかに、残り二〇パーセントについても会社が事案に応じて上積補償をしようというものであり、あらかじめ大枠はきめられているのであって、被告は事故調査をしたのち、参考意見として自己が相当と認めた支給率を記載した意見書を作成するが、右の意見書に記載された支給率はそのまま決裁されることがある反面、上司と意見がくいちがった場合には、上司の意見のとおりに決定されるのであって、被告に査定の最終権限があり決定するわけではなかった。

(4) 現場関係の事業所・作業所の巡回、安全点検、改善指示、指導

この仕事は、被告らが現場に赴いて労働安全衛生法などの法規に違反している事項であるとか、一般的に危険発生の原因となりそうな事項につき是正策を指導するもので、当該事業所宛に指導内容を記載した安全衛生指導書を交付し、後日当該事業所から是正した内容を記載した是正報告書が送られてくることになっている。右の安全衛生指導書及び是正報告書は最終的には取締役役員の専務や常務に送られ、その決裁を受けていた。

(5) 従業員、協力業者に対する安全衛生教育

これは安全衛生に関する法令とか、機械の構造及び取扱い方法などについて説明するもので、部長を通じて専務の決裁を得たうえで行っていた。

(6) 協力業者に対する安全指導

これは外注業者や協力業者の側で実施する安全パトロールに参加しての現場指導にすぎず、特別に権限を振うわけのものではない。

(7) 安全衛生面から必要な廃棄物の処理

これは建設現場等から生ずる木くず、紙くず、金属くず、発泡スチロール、ゴム類、土砂などをそれぞれ分類して処理する作業である。被告は、この廃棄物のうち可燃物を焼却する際、火災防止のための水撒き人夫を一名雇ったことが越権行為であると上司から叱責されたことさえあり、また、つぶれた看板の再利用の可能性についてまで決裁を受けるようにと言われたこともあり、特別な権限を行使するわけのものではない。

(8) その他専任安全管理担当者として行なう社内安全衛生業務の総括事務

これは安全衛生に関する委員会を事前に専務などの許可を得たうえで招集するとか、経営安全衛生会議に出席して安全衛生活動についての報告を行うことなどである。

(9) 被告は以上のような社内における業務の他に社外においても災害防止協会尼崎分会のパトロールなどに参加したことがある。この参加資格については別段会社の管理者である必要はなく、参加者のなかには労働組合員である者もまじっていた。

2  昭和五五年一二月二二日から被告が配属された管理部開発室の業務内容は、新規事業を企画立案し、事業化に伴って生ずることが予想される各種問題について検討するほか、原告が現に営んでいる事業に関連する情報の収集、役員会からの特命事項についての調査を行うものである。そこで管理部長である久保園幸弘は、昭和五五年一二月二二日の開発室新設と同時に被告に対し、従来経営会議で懸案事項になっていた事項、すなわち尼崎市栗山二三番地の原告所有地ほか二つの遊休土地物件の活用についての企画立案、借地である自動車整備工場について地主からなされた買取要求への対応策、自動車整備部門と運送部との統合問題についての検討を指示した。そして被告は昭和五六年一月二〇日の取締役会(経営会議)に出席し、栗山敷地活用に伴う調査報告すなわち付近住民の駐車場に対する需要の度合、収支の予想、必要な工事の態様等について説明を行ない、同年三月七日の取締役会(経営会議)においても追加説明を行なったが、業務担当者として調査をし、その調査に基づく報告であって、特別に経営上の機密事項に接触できる立場で行う業務ではなかった。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。(なお<人証略>によると、被告の各業務は責任者的地位においてなされたというのであるが、被告がその業務を責任をもって遂行するのは、原告会社の従業員の職務として当然の事柄である。ただ被告の行っていた業務そのものは、被告には直属の上司がいてその指示・命令のもとに行っているものであり、被告自身が全面的に責任担当者の地位にいたわけのものではないから、該証言によって前記認定は左右されない。)

(四)  そこで、右認定の事実に照らし、被告が原告会社において使用者の利益代表者に該るかどうかをみるに、まず被告が原告会社の「役員」でないことは明らかである。また、被告は「人事権を有する監督的労働者」には該らないというべきである。というのも、「人事権を有する監督的労働者」といえるには、人事に関して直接の権限を有していることが必要であり、直接の権限とは、使用者の委任を受け、使用者を代表するという意味での自足的・直接的な決定権限をいうのであるから、決定がなされるに際して相談を求められ或いは意見を具申するという程度の、補助的・間接的な決定参画機能を有するだけでは不十分である。被告は、安全衛生管理担当として業務を遂行していた間、配下に労働者を抱え、従って業務遂行上これらの者に対して直接の指揮監督者の立場に立つことはあったものの、これらの者の人事に関して直接の権限を有する地位にはなかったものと認められるので、人事権を有する監督労働者ということはできない。

さらに、前記被告の業務内容からすると、被告は、原告会社従業員の労働条件を調整するなどの業務とは無縁の職責にあったものというべきであるから、「労働関係についての機密に接する監督的労働者」には該らない。

それでは被告は「その他使用者の利益を代表する者」に該るであろうか。前記のように労組法二条一号但書の基本的趣旨は、使用者側の組合に対する干渉を排除し、労働組合の自主性を確保しようとするものであって、副次的にしろ使用者の利益の保護、便益を企図としたものではないというべきであるところ、被告の安全衛生管理の業務及び管理部開発室での業務は、前記認定のとおり、労働組合に対する干渉を招くような人事とか労働条件に関するものではないうえ、いずれも被告に最終的な業務決定権はなく、被告における業務遂行が即使用者自身の業務遂行と同視しうるわけでもないのであるから、被告を使用者の利益を代表する者ということはできない。

(五)  右の次第で、被告は、原告会社に雇用されてから勤続二〇年以上を閲し、資格として主任主事次いで主席主事の地位にあるが、配属されていた安全管理部や管理部開発室において担当していた業務の実質的内容をみるならば、原告主張のように、被告をして、「使用者の利益を代表する者」に該るということはできず、被告は使用者の利益代表者には該らない労働者といわなければならない。

三  被告は、原告会社において使用者の利益代表者に該る労働者ではないのであり、原告会社の労働者として、原告会社の従業員に対して労働組合の結成を呼びかけ、従業員の間で労働組合を結成しようと活動を続け、その中心的役割を果たしたとしても、かような被告の行為は、労働者の行為として当然に許容されるところである。反面からいうと、仮に被告の労働組合結成の活動が実を結び、原告会社従業員の間で労働組合が組織されたとして、被告が当該労働組合に組合員として加入したからといって、当該労働組合を目して、労組法二条にいう自主的な労働組合でない、いわゆる御用組合であるということはできないのであって、原告会社の使用者が当該労働組合に干渉することは許されず、回避すべき事柄に属する。

被告が前記の労働組合を結成しようと活動を続けた行為をとらえて、原告会社の利益に反し、企業秩序を乱す、原告会社の業務運営に対する非協力な行為とか、原告会社に対する背信行為というのは、全く当らないし、いわんや「就労の意思を欠くとき」に該ると断定するのは、いわばこじつけにすぎないといわざるをえない。

もとより使用者は、労働者が労働組合を結成したことの故をもって、その労働者を解雇することは、いわゆる不当労働行為であって許されないところである(労組法七条一号)。

してみると、被告が原告会社従業員の間で労働組合を結成しようと活動を続けたことの故をもって、被告に対して原告のなした本件解雇は、右の不当労働行為であり、就業規則にも違反している解雇というべきであるから無効である。

四  右のとおり、被告に対し原告のなした昭和五六年三月二六日付本件解雇は無効であるから、原告と被告間の雇用契約は終了するいわれはなく、存続しているといわなければならない。そして原告は、同日以降被告の就労を拒否しているものであるが、労務提供の受領拒否による被告の労務提供の履行不能は、使用者たる原告の責めに帰すべき事由に基づくものといわなければならないから、被告において反対給付としての賃金請求権を失わないものというべきである。

そこで、被告主張の反訴請求原因4の事実は、原告の明らかに争わないところであるから、右事実を自白したものとみなすことができ、また同5の事実は当事者間に争いがない。

右の事実によれば、原告は、被告に対し、昭和五六年四月一日以降、被告の一か月当りの賃金として、毎月二七日限り、毎月当り金二一万五、三八九円を支払うべき義務があるほか、さらに被告が給付を受けうるところの、昭和五六、五七年度における各夏期賞与、年末賞与としての金二〇九万三、一一〇円及びこの金員に対する最終支払期日以後である昭和五七年一二月一二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

五  次に原告主張の本訴請求原因9の事実は当事者間に争いのないところであるが、前記のように被告に対する解雇は無効であって、原・被告間の雇用契約は終了することはなく、被告が原告会社を退職したわけではないので、被告から原告に対し、被告が所持する原告主張の株券を譲渡するいわれはない。

六  以上の次第であるから、原告の本訴請求はすべて理由がないからこれを棄却し、被告の反訴請求はすべて理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂詰幸次郎 裁判官 森田富人 裁判官 白石研二)

別紙第一 株式会社柄谷工務店組織図

<省略>

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